千里の自在

平成30年度公社千里山田西団地住戸改善事業 選定
大阪府吹田市, 2018-19   [english]

大阪・吹田市に位置する大阪府住宅供給公社・千里山田西団地の住戸改修プロジェクト。幅広い年代にとっての魅力向上を目的として開催されたコンペで私たちの提案が採用され、計10住戸4タイプの設計を行った。
当団地は1979年に建設された14階建の大規模集合住宅であり、1つの住戸タイプを反復した、計246の住戸から構成されている。
高度経済成長期後に建設されたこの団地は、千里ニュータウンの開発当初に比べて余裕のある間取りではあるものの、当時の核家族の暮らしを想定した3DKの間取りは40年後の現代の生活にとっては窮屈な印象を受ける。住戸の反復による巨大なスケールと相まって、団地全体で画一的な暮らしが営まれているようにも思えてくる。

しかし実際にはどのような住まいであっても、住まい手は家具の配置や部屋の使い方を変えることで空間を自分なりに最適化している。
私たちは住まい手の生活がより自由で、それぞれが空間を最適化しながら「住まい手らしさ」を増幅させるような住戸を設計した。現在の多様化する住まい方に対応し、入居者の生活をさらに豊かなものにしたいと考えたのである。

具体的には、既存の間仕切り壁を解体し、部屋全体にニュートラルな仕上げを施した後、シナ合板による「シマ」と呼ばれる場を設置した。この床下収納と有孔ボードで構成された「シマ」は、空間を分節し、人の居場所となり、モノを所蔵・展示する。

空間を分節する「シマ」
部屋に配置されたシマは住戸を緩やかに分節する。さらに、シマを基準としてカーテンレールを取り付け、入居者が自在に部屋を分割できるようにした。ワンルームとして使うことも、部屋を細かく分割して使うこともできる。カーテンを開ければ「シマ」を通して南北に視線が抜け、光に満ちた奥の空間が浮かび上がる。南北に開口部のある環境を最大限にいかすことを考えた。

人の居場所となる「シマ」
シマは通常の床と比べ30cm高くなっている。小上がりとして住まい手の居場所となり、マットレスを敷いてベッドとしても良い。縁にクッションを置けばダイニングチェアともなる。コの字型の有孔ボードには内側に向かって棚板を取り付けた。そのままデスクとして使ってもよいし、カーテンを閉めて押入として扱ってもよい。ここでも、入居者が自在に使い方を選択できる場となるように試みた。

モノを収蔵・展示する「シマ」
床下収納は季節物などの「見せないモノ」、有孔ボードの壁は日常的に使う「見せるモノ」の置き場となる。床下収納は十分な収納量を確保し、極力「見せないモノ」が部屋に溢れないように努めた。有効ボードには市販のフックを用いることにより、衣服や本、棚等、垂直面にモノを自在に配置することができる。入居者自身が選んだモノが壁に集約されることで、住戸ごとの「住まい手らしさ」が更に浮き立つと考えた。

汎用性のある「シマ」の構成
「シマ」は家具工事の床下収納と、大工工事の有孔ボードの壁によって構成される。これにより、高い精度と工期の短縮化を両立させ、既存の不陸等に容易に対応する。
このシステムは他のリノベーションにも容易に転用可能で、その配置を変えることによって無数の平面パターンを生み出す、高い汎用性を持つものと考えている。

4つの住戸タイプ
設計対象の10住戸に対して、シマの配置を変えることで4タイプの設計を行った。
大きくは2つのシマを配置したtype Aと1つのシマを中央に置いたtype Bに分けられる。

自由自在で、自分が在る家
1955年に端を発する千里ニュータウンの命題は、大阪都市圏への人口集中を解消すべく、良質な住宅を大量供給することにあった。
そこにはひとつの「想定された生活」があった。夫は電車で都心に通い、妻は専業主婦として子どもを育てる。毎日の買物は近隣センターで行う。
しかし生活の多様化した現在、賃貸住宅における「生活の想定」は難しい。一人暮らしやDINKSが増加し、通信技術の発達によりSOHO化が進み、DIYの流行も加わって、住まいには「住まい手らしさ」が求められる。
「シマ」は、住まい手を空間に介入させることで「想定できない生活」を受容する、生活の補助線のようなものである。住まい手は自由自在にモノを配置し、人やモノとの距離感を変えながら、日々新しい家の使い方を発見する。この小さな住戸には、住まい手自身の手によって生み出される、豊かな生活の風景が在る。

事業名称:平成30年度公社千里山田西団地住戸改善事業
建築場所:大阪府吹田市山田西1丁目23番 府公社千里山田西団地A―11棟
専用面積:55平米、10住戸
施工期間:2018.10-2019.02
建築主:大阪府住宅供給公社
施工:三友建設
斡旋:建築家不動産
写真:奥村浩司(Forward Stroke Inc. )
(野副晋平建築計画事務所と共同)