第8回横浜トリエンナーレ空間設計
第8回横浜トリエンナーレの会場構成。我々は主にメイン会場となる横浜美術館を担当した。
今回のトリエンナーレのテーマは「野草:いま、ここで生きてる」。中国の小説家、魯迅の詩集『野草』からとられた題が示す通り、多種の困難さをはらむ現実をたくましく生き延びる我々の姿を端的に表した言葉である。
アーティスティック・ディレクターから提示された空間構成のリクエストは大きく分けて3つ。「横浜美術館内に散らばる円と四角のモチーフ(丹下健三の設計による)の引用」、「透明と反射の対比の構造」、「新たな風景の提示」である。
展示作家数は、横浜美術館をメイン会場とする横浜トリエンナーレでは、過去最多となる93作家。準備段階ではまだ確定していない作品もある中で、膨大な作品数をどのように構成していくか、アーティスティック・ディレクターおよびキュレーターとの対話を重ねながら、手探りのなか、共に設計を進めていくこととなった。
最終的に、ギャラリー1・3・4・6・7の5つのギャラリーに対しては、円と四角からなる緩やかな骨格を与えることとなった。この骨格を下敷きとして、鏡面やポリカーボネートの仕上げを施した展示台やパネルを、パラパラと種を撒くように配置していく。それらは 円と四角のモチーフに対して中立性を保つような、×(バツ)やジグザグの形状の、野草のように細く頼りない什器に力強く支えられている。
円と四角のゆるやかな骨格を土壌として、1つひとつが異なる野草のような什器がパラパラと立ち上がり、作品を支える、そんな風景を目指したのである(なお、スチールの角パイプで構成された架台は、会期後は分解して再び組み合わせて、今後の展示やワークショップの什器として再び使うことができる)。
「野草」、「円と四角」、「透明性と反射性」という言葉を拠り所にしつつ、それらの相反する関係を融和させるように、(これは、今回のトリエンナーレの社会に散らばる対比や衝突を顕在化し、融和していくという試みにも繋がる)、各ギャラリーの構成を進めていく。
例えば、シリンダー状の空間のギャラリー5には、正円を断絶させたような彫塑的な展示壁を挿入しているし、グランドギャラリーの中央には、半透明な四角の台座と鏡面の円形台座を隣接して配置している。チケットカウンターや受付も、各ギャラリーで設けた「野草のような什器」を木工で自己引用しつつ、ここでも反射と透明の対比と融和を試行している。
我々の生きる世界は数々の社会問題、衝突や敵対性を孕む。その中で生き抜く我々がこれから目指すべき、「新しい風景」を提示することを、このトリエンナーレの空間設計においても目指した。
蜷川 結+森 創太 / nmstudio architects
所在地:横浜美術館 神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4−1
主用途:第8回横浜トリエンナーレ
設計:nmstudio一級建築士事務所 + HIGURE17-15cas
アーティスティック・ディレクター:リウ・ディン(劉鼎)、キャロル・インホワ・ルー(盧迎華)
担当:蜷川結+森創太(nmstudio) 、有元利彦(HIGURE17-15cas)
竣工:2024年3月
写真: Forward Stroke Inc.